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 お祭りの会場となっている神社は、いつもの淀んだ雰囲気とは打って変わり、ズラリと掲げられた提灯と、ひっきりなしに響くお囃子でずいぶんと賑わいでいた。
 当然ながら、人混みも凄まじい。

「うわ! マジで迷子になっちゃいそ……」

 不安げに言いつつ、それでも友紀は、ちゃっかりと彼氏の手を握っている。
 しかも、ただ握っているのではなく、指の間と間を絡め合わせる、いわゆる〈恋人繋ぎ〉をしていた。

「ねえ、ほんとはふたりだけで見て回りたいんじゃないの?」

 手元に冷ややかな視線を送りつつ、私は訊ねた。

 すると友紀は、あからさまにばつが悪そうに、あらぬ方向に目を泳がせた。

 ――分かりやすい奴……

 私は小さく溜め息を吐くと、「いいよ」とふたりに向かって言った。

「せっかくだし、ふたりで楽しんだら? 私は私で適当に見るから」

 我ながらずいぶんと投げやりな口調になっていたと思う。
 けれども、当の友紀は、私の言葉がよっぽど嬉しかったらしく、急に表情をパッと輝かせ、空いている方の手で私のそれを握ると、大袈裟に何度も上下させた。

「やーん! やっぱ莉子っていい奴ー!
 じゃ、この際だからお言葉に甘えちゃう! あ、莉子は上村君と一緒に回りなよ! うん、それがいい!」

 まくし立てるように言いきった友紀は、挨拶もそこそこに彼氏と共に人混みの中へと消えて行った。

 残された私と上村は呆然としていたけれど、擦れ違った人に、邪魔だと言わんばかりに睨まれたとたん、ハッと我に返った。

「とりあえず歩かないか?」

 上村に促され、私も「そうだね」と頷く。

 何が何だか、よく分からない展開になってしまった。