ここに至って、ようやく声帯が働き始めて第一声、優花の口から飛び出したのは、晃一郎がなぜ家のお風呂を使っているかではなく、明るいブラウンから明るすぎるゴールドに変色した、その頭髪についての疑問だった。
――だって、これじゃまるで『夢の中の晃ちゃん』みたいだ。あれは夢だから許容できる色合いであって、リアルにこの色の髪の毛はありえない。
「似合わないか? けっこう気に入ってるんだけど」
すぐ目の前で、『うん?』と、形の良い瞳が悪戯っぽく細められる。
「に、似合うとか似合わないじゃなくって……」
――ち、近いよ顔っ!
あまりの至近距離で視線がつかまり思わずしどろもどろになっていると、優花たちの気配を察したのか、ダイニングの方から祖母の、のんびりとした声が飛んできた。
「優ちゃん起きたの? 今、お風呂は晃一郎君が使っているからねー」
――もう知ってるよ、おばあちゃん……。
優花は、がっくりとうなだれる。穏やかな祖母の気性はとても大好きだが、マイペース過ぎるのがたまにキズなのだ。
朝のダイニングキッチンにはいつもと少し違う空気が流れていた。四人掛けのテーブルには、いつものように祖父の隣に祖母、祖母の向かい側に、結局シャワーを浴びそこねた優花。
その優花の左隣には小ざっぱりとした風情で、如月家定番の和風朝食を、モリモリと小気味よく胃袋に収めている晃一郎がいる。
幼なじみのお隣さん。
外見もイケメンの部類で、学業優秀、スポーツ万能。
性格も、まあ申し分なし。
これだけ好条件が揃っていたら、もっと色っぽい展開がありそうなものだけど、不思議なくらいその気配はない。
なかったはずだったのに。
あの夢のせいで変に意識してしまい、優花の心臓はドキドキと鼓動を速めた。