如月家は三年前に両親が交通事故で亡くなってから、優花と祖父母の三人家族。

 だから、朝にシャワーを使うとしたら優花しかいない。

 なのに、目の前には、今まさにシャワーを浴び終えて『お着換え中』の先客がいた。

 目が覚めるような金色の頭髪をタオルでガシガシ拭き取っているその人物の均整の取れたしなやかな肢体からは、ホカホカと湯気が上がっていて、右耳につけられた、幅一センチ程の銀色のクリップ式イヤリング、イヤーカーフが、水を弾いてキラリと鋭い光を放っている。

「ん? ああ、おはよう。シャワー使うのか?」

「……」

 ダルマさんが転んだ状態のまま硬直している優花に、ニコやかに声をかけた人物こそ、何を隠そう噂の幼なじみ、『御堂晃一郎(みどうこういちろう)』、その人だった。

――な、な、なんで、(こう)ちゃんが、ここにいるの!?

 脳内を、クエスチョン・マークが、団体さんで駆け抜けていく。

 晃一郎は、尚も硬直している優花の様子など微塵も気にとめる様子もなく、『ふんふんふん』と、実にご機嫌さんで鼻歌を口ずさみながら、高校の制服であるグレーのスラックスに長い足を突っ込みベルトを締めた。

 さらに、白Tシャツの上にワイシャツを着込んで首にエンジのネクタイをひっかけ、濃紺のブレザーに袖を通し、まだ乾ききらない髪を右手のタオルで拭き取りつつ、利き腕の左手だけで器用にブレザーのボタンをとめながら『お先ーっ』と入口に、つまりが、優花が突っ立っているドアの方に歩み寄ってくる。

 優花は、ごくりと喉を鳴らしてから、すっとんきょうな声を上げた。

「なっ――、なに、その髪の毛っ!?」