「いやー、喉が渇いて、ついデキゴコロデス、ゴメンナサイ」
「違うっ……」
「違うって? ってか、なんかその笑顔、怖いぞ、優花……?」
――へえ、怖いんですか。そうですか。
それは、後暗いところがあるからじゃないんですか?
「どうして、リュウくんに嘘を教えるの?」
「へ……?」
優花の怒気の原因が掴めない晃一郎は、要領を得ないように目を瞬かせる。
「現国の時のメモのこと!」
ぶすっと加えられた注釈にやっと合点がいったのか、晃一郎は優花の隣で邪気のない笑みをたたえているリュウにチラリと若干毒の含んだ視線を投げた。
『バラシタナコノヤロウ』
そんな怒りのオーラをにじませて念波を送ってみるが、鉄壁とも思えるエンジェル・スマイルの前には歯が立たない。
「えーと、まあ、その、あんまり気持ちよさそうに寝てたから、邪魔したら悪いかなーって」
「だからってなぜあの内容? そうなら、ただ『寝かせてあげてほしい』って書けばすむことじゃないの?」
「あー、別に悪気はないから、気にするな」
一応の言い訳は聞いたものの、すっきりとしない優花は、むーっと眉根を寄せる。
その様子を興味津々で傍観していた玲子が、ニッコリと本日一番の笑顔を浮かべた。
「えー、なになに? 嘘のメモって何? 何の話?」
ゴロゴロと、まるで上機嫌の猫が喉を鳴らしているような声音に、優花はぎくりと全身をこわばらせる。
しまった! と、思ったときには遅かった。
冷静にと努めたつもりだったが、やはり怒りに我を忘れていたのだろう。
猫にカツオブシ。玲子にゴシップネタ。
優花は、玲子に絶好の小説ネタを提供してしまった己の愚行を、はっきりと悟った。