優花がこの夢の話をした時に玲子は、絶好の小説ネタを見つけたとばかりに、眼鏡の奥の瞳をキラリと輝かせて、言ったものだ。

『夢は願望の現れだっていうよ。それは、優花が好きな男の子と手に手を取って逃げたい、つまり、『駆け落ちしたい』って心の何処かで思っているからじゃない? ついでに言えば、何かに追われたいM願望の発露! 優花って、絶対Mっ気あるよねー』と。

――まあ、なんとか願望は無視しておくとして。だとすれば、私は『晃ちゃんと駆け落ちしたい願望』があるってこと?

 そんなバカな。

 確かに好きだけど、それは、例えば『お兄ちゃん』が居たらこんな感じだろうって言う、言わば肉親への情に近い。

 そう、家族よ家族っ。

 だって、いつまでオネショしてたとかまで知ってる仲なのよ?

 けっして、手を繋ぎたいとか、まして、キ、キ、キスしたいとか思っているわけじゃなくっ!――

 ぴぴぴぴ――。

 ベッドの上で一人、脳内妄想を膨らませながら百面相をしていた優花は、目覚まし代わりのスマートファンのアラームに、ハッと現実に引き戻された。

「寒っ……」

 背中の汗が冷えて、ヒンヤリする。

――このままじゃ風邪をひいちゃう。シャワーでも浴びて、気持ちを切り替えよう。

 そう思った優花は、重い体をズルズルと引きずるように二階の自室から階下のバスルームへと向った。

 そして、洗面所兼脱衣所の外開きのドアを無造作に開け、視線を上げたその瞬間。

――えっ!?

 ドアノブを掴んだまま、優花の全身はものの見事にピキッ! と、固まった。