「さっき泣いていた理由を、教えてください」
「……え?」
今までの話の流れからてっきり、好きな漫才のネタでも聞かれるのかと思っていた優花は、意外なリュウの言葉に虚をつかれて目を丸めた。
「言いたくないのなら、無理には聞きませんけど、気になってしまって……」
いきなり目の前でよく知らない他人がボロ泣きしたら、優花でも気にはなるだろう。
ただ、その涙の理由を、直接本人に聞くことはしないだろうが。
好奇心よりも、個人のプライベートに踏み込むことへの遠慮が、上回ってしまうのだ。
率直に疑問を質問に変えてくるあたりは、やはり欧米人ならではの、積極的な性格の現れだろうか。
「えっと、あのね……」
涙の理由。
玲子は晃一郎のせいだと決め付けていたが、決して頭をかき回す晃一郎の手が乱暴で痛かったから泣いたのではない。
自分でもどうしてだか分からない。だから理由を問われても、困ってしまう。
「コウと、ケンカでもしましたか?」
「えっ……?」
――晃ちゃんと、ケンカ?
「う、ううん。別にケンカは、してないけど、どうしてそう思ったの?」
『晃一郎とケンカしていて優花が泣いた』のだという推論に、どうしてリュウが至ったのか不思議な優花は、思わず質問に質問で返してしまった。
「それはやはり、恋人とケンカをすれば、女の子は泣いたりするものでしょうから」
「は……い?」
酷く聞き捨てならないフレーズを聞いた気がして、優花は、勢いよく眉根を寄せる。