「ああいうのを、『夫婦漫才』と言うんですね」
「……え?」
――夫婦……漫才?
リュウの唇から飛び出してきた意外すぎる単語に、優花はキョトンと目を丸める。
「コウとレーコの二人のことです」
コウとは晃一郎、レーコとは玲子のことだろう。
そういえば、優花のことも最初から「ゆーか」と、名前で呼んでいた。
「ゆーか」と呼ぶときだけ、若干、声のトーンに甘さが加味されている気がするが、おそらく優花の気のせいだろう。
アメリカと言うお国柄か、知己を得た人間を、ファースト・ネームで呼ぶのが彼の流儀らしい。
「夫婦漫才を知ってるんだね、リュウ君」
「ええ。大ファンです。日本の知人にDVDを送ってもらって、家族で良く見ました。楽しいですよねアレは。ただの喧嘩のように見えて、その奥に込められている愛憎模様が、なんとも言えず楽しいです」
「愛憎……」
晃一郎と玲子の愛憎模様とやらを想像して、思わず優花は小さく吹き出した。
「やだ、リュウ君ってば、日本語上手すぎ」
「そうですか? ほめてもらえてウレシイです」
意外だが楽しい話題に、自然と優花の気持ちもほぐれていく。
そんな優花の表情の変化を捉えたのか、リュウは、ホッとしたように呟きを落とした。
「よかった」
「え?」
リュウとの会話を楽しみながら、ほどほどに白熱するバレーの試合を目で追っていた優花は、その呟きの意味を掴みかねて、反射的に、すぐ隣、斜め上方にあるリュウの顔に視線を向けた。
穏やかなディープ・ブルーの瞳には、安堵の色が見える。