「そっか……。まあ、嫌なものを、無理強いはしないけどね」
少し残念そうに玲子は肩をすくめたあと、何かに気づき口の端を上げた。
「あ、イケメンズが、心配しておいでなすったよー」
――イケメンズ?
玲子の視線の先にはバレーの試合が終わったのだろう、晃一郎とリュウが連れ立って歩み寄ってくるのが見えた。
二人の間に、ホームルームの時のような不穏な空気は微塵も感じられず、楽しげに会話を交わしながら近づいてくる。
「へぇ。あの二人、そりが合わないかと思ったけど、意外と仲良しさん?」
さすがの作家志望。
玲子も、晃一郎とリュウ、二人の間に流れる微妙な空気を感じ取っていたらしい。
意外そうに見張られた黒縁メガネの奥のつぶらな瞳が、愉快げに細められる。
「でも、残念。グレかけた優等生と謎の美少年転校生の狭間で揺れる、優花の恋模様が見られるって思ったのになぁ」
「玲子ちゃん……」
――誰が、グレかけた優等生で、誰が謎の転校生だ?
第一、リュウくんは留学生だし。
やっぱり、玲子はその方向で妄想をふくらませていたのかと、優花は肩の力ががっくりと抜けてしまう。
「鼻は再生したか、優花? って、まだ沈没したままみたいだな」
「大丈夫ですか、ゆーか? まだ少し顔が赤いですね」
無礼千万な前者は晃一郎で、礼儀正しい後者はリュウのセリフだ。
どう贔屓目に見ても、リュウの方が紳士的で優しい。
ひいきめ 普段の晃一郎ならば、どちらかというと、リュウのように心配げに声をかけてくれるのに。