「ありがとう、玲子ちゃん」
礼を言い、コクリとスポーツ飲料を一口口に含むと、ほのかな甘さが喉に染み渡った。
「あー、美味しい」
思いの外、喉が渇いていたらしい。
「そうでしょうとも、そうでしょうとも」
『アタシのおごりなんだから、美味しくないはずがない』と、おどけて胸を張る玲子の、自分を元気づけようとしてくれている気遣いを感じて心が軽くなる。
もう、夢のことには触れたくない。そう思いつつも、聞かないではいられなかった。
「……ねえ、玲子ちゃん。私、どのくらい気を失ってた?」
「え?」
意外なことを聞かれたように、玲子は、小首をかしげる。
「あ、なんだか、夢を見てた……ような気がするんだ。だから、寝言でも言ってたら嫌だなぁって」
「夢? って、アタシがタオルを濡らして戻ってきて顔に乗っけたらすぐに目を開けたから、たぶん、二、三分だと思うけど?」
――二、三分?
そんな短い時間に、あれだけの内容の夢を見られるものなの?
死ぬ間際の人間が、それまでの人生を、走馬灯のように一瞬で見るという。
でもそれは、既に実体験して記憶に刻まれているビジョンを瞬時に再生するようなものだから、優花にも、『そういう現象もあるのかな』と、なんとなくその存在も理解できる。
だから、もともと無いデータを再生することは、物理的に不可能だろうと思うのだ。
――じゃあ、私が見たのは、ただの夢じゃないってこと?
体中を引き裂かれたような、あの激痛。
額に感じた、大きな手のひらの温もり。
自分に向けられる、お医者様で超能力者でスーパーマンみたいな晃一郎の、良く知っているようで全く違う、少し大人びた強い眼差し。
胸の奥底で、心の一番深い場所で、わけのわからない感情がざわざわと騒いでいる。
あの夢の続きは、知りたくない。
なのに、知りたくてたまらない。
恐怖心と探究心。
その相反する感情がなんなのか分からないまま、優花の心のウエイトは、恐怖心が勝った。
好奇心は猫を殺すのだ。