「保健室に行くか、如月?」
気遣わしげに問う体育教師に、優花は否と、頭を振った。
「あ、大丈夫です。少し休んでいれば平気です」
今は、一人でいたくない。
もしまた、あの夢に落ちてしまったら――。
胸をよぎるのは、映画のような夢を見ることへの、ドキドキワクワクするような期待感ではなく、言いようのない不安感。
あの夢の続きは、見たくない。
――怖い。あの夢は、怖いから、嫌だ。
「そうか? 無理をするなよ」
「はい」
幾分青ざめた表情で、それでも笑みを浮かべると、優花は再び始まるバレーの試合を見学するべく、体育館の隅の壁際へと足を向けた。
ピーッ!
ゲーム開始のホイッスルが響き、再開されたバレーの試合を見るともなしにぼんやりと見ていた優花は、隣に腰を下ろした人の気配に、ハッと顔を向けた。
「玲子ちゃん……」
「はい、スポーツドリンク」
「え?」
――わざわざ、学食まで行って、買ってきてくれたの?
でも、流石に授業中に、ジュースを飲むわけには……。
ぽん、と手渡されたペットボトル入りのスポーツ飲料と親友の顔を、交互に見比べる。
「先生の許可はとってあるから、心配しないで飲みなよ」
『優花の考えなどお見通し』。そんな笑みを浮かべる玲子の顔を見ていたら、夢の中で逢った栗色の髪の玲子のことを思い出してしまった。
目の前にいるのは、黒髪の玲子。
――そう、こっちが本物。
今が、現実なんだ。