「優花ー。おーい、優花ってば!」

――あ、玲子ちゃんが呼んでる。

 すうっと意識が浮上しはじめて、そんなことをぼんやりと考えていたら、いきなり顔面が冷たい感触に覆われて、寝ぼけた意識は一気に覚醒した。

「うひゃっ!?」

――冷たいっ!

 顔面に置かれ濡れた冷たい物体を払おうと、反射的に手をやった優花の手よりも早く、誰かの手がそれを外してくれたようだ。

 開けた優花の視界いっぱいに広がるのは、自分を心配げに覗き込む、顔、顔、顔。

 声の主、玲子に、晃一郎。それにリュウもいる。

 その他大勢のクラスメイトに、一人だけ混じっている厳つい顔の成人男性は、体育教師の飯田先生。

「あ……れ?」

――私、どうしたんだっけ?

 夢と現実がごっちゃになって、優花は混乱してしまう。

「大丈夫、優花?」

「大丈夫……って、なにが?」

濡れタオルを片手に心配げに問う玲子の表情が、安堵したように緩んだ。

「もう、何寝ぼけてるのよ。バレーボールを顔面でレシーブして、ぶっ倒れたのよ、優花」

「ほんと、ゴメンな、如月(きさらぎ)。わざと狙ったんじゃないから……」

 玲子の後ろから、済まなそうに詫びるクラスメイトの男子は、おそらく、あの弾丸スパイクの打撃主だろう。

「あ、平気平気。ちょっとびっくりしただけだから、気にしないで」

 心底申し訳なさそうに頭を下げるクラスメイトに、優花は、ぶんぶんと手を振る。

――そうか、私、また夢を……。

 だぶん、ボールがぶつかったのは、きっかけに過ぎない。

 一時間目の居眠りの時と言い、この夢の見方、と言うより落ち方は異常だ。何か尋常ならざる力が働いているような気がしてならない。