「誰が毒牙にかけた、誰がっ!」

「そこの枯草(かれくさ)頭に決まってるじゃない!」

「あんただって、似たような頭じゃないか!」

「あら、失礼ね。アタシのは麗しい栗色の御髪(おぐし)と言うのよ。牛にヨダレまみれでムシャムシャ食べられる枯草頭と一緒にしないでよ!」

「俺は牛に食べられたことはない!」

――え、え~と。

「二人とも、それくらいにしておきなさい。優花ちゃんが、困っているじゃないか」

 のんびりとした声音にも関わらず、さすがの博士効果。鶴の一声で、二人のバトルは終わりを告げた。

「それじゃ、私と御堂君は研究室(ラボ)の方にいるから、もしも何かあったときには枕元のインターフォンで呼んでくださいね」

 鈴木博士に言われて、インターフォンを確認しようと枕元に視線を走らせている優花の代わりに、玲子がニコニコと答える。

「はい。わかりました」

 去り際、鈴木博士に『優花ちゃんを、あまり疲れさせないようにね』と言われた玲子は、『分かりました』と、やはりニッコリとすこぶる愛想の良い笑顔で答えていた。

 晃一郎と同じく、玲子も鈴木博士には、とても礼儀正しい。

 なんとなく、ここで最強なのは、鈴木博士なんじゃないかと思う。

 年上だということだけじゃなく、あの、人の良さがにじみ出ているような笑顔で穏やかに言われたら、優花だって、たぶん『YES!』としか言えない気がする。