「……博士ですか? こいつに、優花のことを教えたのは」
ベッドに横たわったまま、ほとんど伸し掛かられ状態で更に熱烈な玲子の頬ずり攻撃にさらされ、言葉も上げられずに、ただただ目を白黒させていたら、晃一郎の唸るような低い声が降ってきた。
『こいつ』の、イントネーションに、何かただならぬ殺気を感じる。でも、博士はそんなことを気にする様子は微塵もなくニコニコと邪気のない笑顔で答える。
「ああ、私が連絡したんだよ。どちらにしろ、知らせずとも村瀬くんなら遠からず駆けつけただろう? ならば、最初から教えておいても問題はないと思うよ。それに、優花ちゃんのこれからにも村瀬くんの人脈とコネは有用だろう?」
と、さらにニッコリと笑みを深めた。
晃一郎は一言も反論できず、でも、明らかに不服そうな渋面を作った。
「ナァニ? 御堂、アタシに知らせないでバックれるつもりだったんだ? へぇー。さすがに特Aランク様は、やることがエゲツなくていらっしゃる」
優花の頬から自分の頬を引きはがし、でも首に回した手は離さないまま、玲子は、ギロリと鋭い眼差しと棘だらけの言葉を晃一郎に投げつける。
そこかはとなく漂う不穏な空気を感じ取り、優花は首をかしげた。
――あれれ?
もしかして、こっちの世界の晃ちゃんと玲子ちゃんって、犬猿の仲なの?
「違うわよ、恋敵だったの! こいつは、アタシの大事な親友を毒牙にかけた憎っくきオオカミ野郎なのよっ」
まるで優花の気持ちを読んだかのように、玲子は、優花に大きすぎる声で耳打ちをする。
――それって、恋敵?
というか、玲子ちゃんも心が読める人なの?