大音量の自分の叫び声でハッと我に返った如月優花は、パチリと目を開けた。
見慣れた、白いクロス貼りの天井から淡いアイボリーの小花柄の壁紙へ。その下の、パステルピンクのカーテンの隙間から柔らかい朝日が差し込む窓辺まで、ゆるゆると視線を運ぶ。
壁掛けの鳩時計の針は、午前六時を指している。
ここは、夕暮れの街中でも、夜の帳に包まれる直前の森の中でもない。紛れもなく、自分の部屋だった。
だとすれば、あれは――
「夢……?」
呆然とつぶやき、まだドキドキと激しく跳ね回る鼓動を感じながら、重い体をベッドの上に引き起こした。
もう十月だと言うのに、背中にはぐっしょりと寝汗をかいている。
頬に残る涙の後を両手で拭い取り、右手のひらを目の前でそっと開いて見つめてみれば、そこに残るのは繋いだ手の感触。あのぬくもりが残っている気がして、ギュッと右手を握りしめた。
――また、あの夢だ。
ここ数年、何度となく繰り返し見てきた、『誰かと逃げる』夢。
最初は、まるで映画のワンシーンを繋ぎ合わせたような、脈絡のない映像の連なりにすぎなかった。
例えるなら、そう。祖父が昔、優花が子供のころに見せてくれた秘蔵のサイレント映画のような、まったく音の無いただのモノクロ・ビジョン。
それがやがて色を持ち、音を纏い、感触を伴うようになった。
でも、こんなにリアルなのは、初めてだ。
今までは、一緒に逃げている相手が誰なのか分からなかった。ましてや――。
「私の、ファースト・キス……」
唇に触れた時の、感触。
柔らかくて温かいあの感触が甦ってきてしまい、反射的に両手で口を覆い隠す。