冷えた体に、じんわりと染み渡る彼の体温。そのぬくもりに身を預けながら、やはり彼女はなす術もなく泣くことしかできない。
「優花……」
少し困ったように、そして諭すように、彼は彼女の名を呼ぶ。
分かっている。
これは、誰でもない彼女自身が選んだこと。
それでも、胸が痛い。
この期に及んで、このぬくもりを手放してしまうことが、迫りくるモノよりも怖いなんて。
――私っていつもこうだ。
優柔不断で、決意したつもりでも、すぐに心が揺らぐ。
こんなことじゃいけない。
残された時間が少ないなら、泣き顔でなんていたくない。
ほらっ、しっかりしろ如月優花!
元気なのが、あんたの取りえでしょうが!
顔を上げて、前を向かなきゃ!――
ギュッと唇を噛んで自分に気合いを入れ、精一杯の笑顔を作って、どうにか顔を上げる。
「ごめ……」
――えっ?
詫びを言おうと開きかけた唇へ、不意に届いた柔らかい感触に、思わず思考が止まった。
驚きすぎた彼女は、体を強張らせたまま目を瞬かせる。『ごめんね』の言葉は、口から滑り出す前に彼の唇に遮られてしまったのだと、ぼんやりと理解した。
近づきすぎてピンボケだった彼の顔が少し離れて、呆然と見つめる彼女の目の前ですっきりと像を結ぶ。
くっきり二重の色素の薄い茶色の瞳が少し照れたような色をたたえて、それでも真っ直ぐに彼女の視線を捉える。
そして彼は微かに口の端を上げると、信じられないような台詞を吐いた。
「餞別せんべつに、貰っておくよ」
――は、はあっ!?
「せ、餞別ぅっ!?」
――今の今まで『そんな気はこれっぽっちもない』ような涼しい顔をしておいて、最後の最後に、こんなっ。こんなの、不意打ちじゃないかっ!
「御堂晃一郎の卑怯者ーっ!!」
……って、……あれ?