瞬きすらできなかった。
スリップし、横ざまになったトレーラーの最後部に付けられたプレートの『危険』の赤い文字が、スローモーションで大きくなっていく。
夜気を裂いて響き渡る、甲高いブレーキ音。
父の母のそして自分の声にならない悲鳴が上がり、耳をつんざく轟音とともに世界がグルリと回転した。
永遠とも思える、一瞬の恐怖の静寂。
その静寂を蹴破って、鉄と鉄がぶつかり合う重い衝突音が空気を震わせる。
まるで作りたての飴細工のように、あまりにも簡単に、ひしゃげ潰れていく車体。
鼻をつく、ガソリン臭。
口腔に広がるむせ返るような、鉄の味。
何が起こっているのか理解する暇もなく、襲いかかるどうしようもなく圧倒的な力に振られ揺さぶられ叩きつけられ、やがて、視界が赤く染まった。
なぜか、痛みは感じない。
あまりに深すぎる傷は痛みを感じないのだと、そう教えてくれたのは、晃一郎だったか。
優しい幼なじみの面影が脳裏に浮かんだとたんに、背筋を這い上がってきた恐怖心に全身が震えた。
――やだ。いやだっ。死にたくない。
私、まだ死にたくないっ!
晃ちゃん。
晃ちゃんっ!
晃ちゃんっっ!
何故、その名を叫んでいるのか、優花自身にも分からない。
それは、生物としての死への恐怖。
純粋な、生への渇望。
『優花!? お前、優花なのか!?』
――晃、ちゃん?
『大丈夫だ、必ず助かる。だから頑張れっ!』
朦朧とした意識の下で優花が最後に聞いたのは、なぜかその場には居ないはずの幼なじみ、御堂晃一郎の驚きに満ちた声だった。