それに、玲子のことだから、ドロドロでろでろのミステリーサスペンス仕立てにされてしまう可能性もなきにしもあらず、だ。
身近な人間と、ラブあまストーリーを演じるのも嫌だが、血みどろの復讐劇を演じるのは、もっと嫌だ。
「って、あれ? リュウくんは?」
そういえば、晃一郎の姿も見えない。
「リュウくんは? じゃないよ。初めての授業で居眠りこいてる案内役に呆れて、傷心のアメリカン・ボーイは、どこかにいっちゃいました」
「えっ!?」
痛い現実を突きつけられて、リュウに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
いくら物怖じしないように見えるアメリカ男子でも、留学初日の最初の授業で案内役が居眠りなんて、悪いことしちゃったな。これで、日本が嫌いになったりしたら、どうしよう。
などと一人、優花が心の中で反省モードに突入していたら、玲子がニヒヒと人の悪い笑みを浮かべた。
「って、いうのは冗談で、次の体育の授業の準備で、更衣室にいきましたとさ」
「そっか……。悪いことしちゃったなぁ」
ため息混じりで言う優花の顔色は、冴えない。正直、さっきの夢は、心に重かった。
今まで、あの時のことを夢に見たことなどなかったのに、どうして?
それも、授業の最中に見るなんて。
今朝の夢と言い、夢見が悪すぎる。
「優花? 本当に大丈夫なの? やっぱり保健室行った方がいいんじゃない?」
保健室なんて、とんでもない!
ついうっかり寝込んで、あの夢の続きを見たりしたら、それこそ笑えない。
ついつい、夢に引きずられて考え込んでしまう優花はそれを払拭するように、意識して笑みを作って、勢いよく立ち上がった。
「ううん、平気。体育始まっちゃうから、着替えに行こう!」