「そっか、静電気か、静電気……」

『納得した』というよりは、『納得したい』といった風情で呟きながら、黒板の前でヨロヨロと立ち上がった人物に、皆の視線が集まる。

 教室内で唯一の成人男性で、責任者でもある担任の『鈴木先生』は、ずれた黒縁メガネを指先で調整し、教室の隅々に視線を巡らせると、ほっとしたように頬を緩めた。

「皆さん、ケガはないようですね。では、気を取り直して。御堂くん、あ、せっかくだから如月(きさらぎ)さんも、タキモトくんの案内役をお願いしますね」

「は……い?」

――私も?

 いきなり自分にお鉢が回ってきた優花はキョトンと目を丸めて、鈴木先生と晃一郎とリュウの顔へ、順繰りに視線を走らせる。

 鈴木先生は、他意のない穏やかな笑顔で。

 晃一郎は、どこか憮然とした表情で。

 そしてリュウは、満面のエンジェル・スマイルで応えると、自然な動作で優花の方へ右手を差し出した。

「どうぞヨロシク。えっと――」

「あ、優花(ゆうか)如月優花(きさらぎ ゆうか)です。よろしくお願いしますっ」

 小首をかしげるリュウに、優花はぺこりと頭を下げて右手を差し出す。

 先刻の静電気総動がチラリと脳裏をかすめ、少しばかりドキドキしたが、電気が走ることもなく無事握手は成立した。

 どうして自分が教壇の前で、留学生と挨拶を交わしているのかよくわからないまま、狐にでもつままれたおももちの優花は、やや引きつり気味の笑顔を浮かべた。