「ってぇ。すっげぇなー。こんな静電気、ギネス申請ものじゃないか?」

 立ち上がりざま、『おーいてっ』とブツブツ文句を言っている割には、左手をフリフリする晃一郎の、のほほんとした表情に危機感はまったく見られない。むしろ、なぜか楽しげにさえ思える。

「静……電気?」

 優花は呆然と呟き、駆け寄った体制のまま、その場に立ち尽くした。

――そんな、生易しいものだった、今のが?

 静電気どころか、雷が落ちたと言っても過言ではないくらいの、ものすごい衝撃。

 少なくとも今まで、優花はこんな現象は見たことがない。

 その場にいた誰もが、優花と同じように違和感を覚えたのだろう。

 しんと静まり返っていた教室に、ざわめきが、波紋のように広がっていく。

「晃……ちゃん、大丈夫なの?」

 おそるおそる尋ねてみれば、「平気平気。ただの静電気だから」と、ニッコリ満面の笑みで返された。

 どうあっても、ただの『少し大きい静電気』で、収めたいらしい。

「Are you all right?」

 笑みを刻んだ表情のまま完璧な発音でさらりと言うと、晃一郎は、片膝をついたままのリュウに左手を差し出す。

「大丈夫です。本当、すごい『静電気』でしたね。御堂くんは親戚に電気ウナギでもいるんですか?」

 リュウは、晃一郎の差し出した左手を取ることはなく、身軽に立ち上がると、これまた完璧な発音の日本語で答えを返す。その顔に浮かぶのは、満面の、エンジェル・スマイル。

 ライト・ブラウンとディープ・ブルーの瞳が、真っ向から対峙する。

――うわー、なにこれ?

 一見、和やかそうな雰囲気の下に流れる、そこはかとない不穏な空気。

 優花には、見えない火花が散ったのが、見えた気がした。