確かに、泣き虫だった子供の頃は、こうやって頭を撫でられた覚えはある。

『大丈夫だから、泣くな』

 そう言って、何かにつけメソメソっと涙を零す弱虫な自分を励ましてくれた、幼なじみの優しい手の感触が、大好きだった。

 でもそれはあくまで、小学校低学年くらいまでのことで。今は、お年頃の高校三年生。いくら幼なじみだといっても、教室でこの行動は、常軌を逸している。

 否。教室でなくても、充分、優花の常識からは外れている。

―――こ、こ、こ、晃ちゃんっ!?
 やっぱり変だ、変過ぎるっ!

 恥ずかしさで、優花の顔にサッと朱が上った。

 ぱくぱくぱく、と。酸欠の金魚みたいに口を開け閉めしなががら、信じられない思いで晃一郎の顔を見上げると、その瞳には悪戯小僧のような、少年めいた楽しげな色合いが浮かんでいる。

――か、か、からかわれた?

「別に、からかったつもりはないからな」

 頬杖をつきながら、晃一郎は、実に楽しげに微笑んだ。

「え……?」

――今、私、声に出して言ってないよ……ね?

 まるで、『心を読んだ』ようなその台詞に、優花はパチクリと目を丸める。瞬間、プッと、晃一郎は、耐えかねたように小さく噴出した。

「ほんっと、分かりやすいよな、お前って」

 どうやら、心を読まれたわけではなく、表情を読まれていたらしい。なんだか、酷くバカにされているような気がする。

「どうせ、分かりやすいですよーだ。晃ちゃんみたいに、難しい頭の構造してないもん、私」

 むーっと、優花が頬をふくらませてむくれていると、教壇の方から鈴木先生ののんびりとした声が飛んできた。

「えーと。取り込み中に悪いけど、委員長。しばらくタキモト君の案内役、お願いできるかな?」

 もちろん、委員長とは優花のことではなく、晃一郎のことだ。