激しく揺れる視界の向こう側で、深紅に燃える夕日が、見慣れた街の風景を真っ赤に染めている。
でも、もうじきすべては、背後から迫る夜の闇にのまれてしまう。
その闇から逃れるように、急に下がりだした夜気に身を震わせる暇もなく、家路に急ぐ人波を縫って少女はひたすら走っていた。
一つ、また一つ。
燈っていく街の灯りが、視界の先で激しく舞い踊る。
――苦しい。
足が、腕が、肺が、そして、心臓が。
もうこれ以上の負荷には耐えられないと、もう限界だと悲鳴を上げている。
でも、止まるわけにはいかない。
はあはあと上がる息の下、湧き上がる、たとえようもない恐怖心。
怖かった。
足を止めたら、追って来るモノに捕らわれてしまったら、そこで全てが終わってしまう。
自分と言う存在を跡形もなく消し去られてしまう、そんな恐怖心。
耐えられたのは、たぶん、震えるこの手をギュッと握り締めてくれている『彼』の存在のおかげだ。
彼女の手を引く、力強い大きな手。
伝わるぬくもりが、ともすれば挫けそうになる心を奮い起こしてくれる。