――何?

 ドキン、と鼓動が大きく一つ、乱れ打つ。

 わきあがるのは、たとえようもない不安感。

 ふだん目にしたことのない、晃一郎のその厳しい表情が、優花の胸の奥に生まれた不安の種を急激に膨らませていく。

「晃……ちゃん?」

 ドアの向こう側には、人が近づいて来る気配がしている。

 ペタペタと軽快なサンダルの音を響かせているのは、たぶん担任の鈴木先生だろう。

 いつもと変わらない、教室の朝の一コマ。なのになぜ、そんな表情を見せるのか。

――どうしたの?

 続けようとした優花の言葉は、ドアを開けて入ってきた人物を目にしたとたん、喉の奥に引っ込んでしまった。

 教室に入って来た人物は、男性二人。

 一人は、優花の予想通り、やせぎすで眼鏡をかけた穏やかな風貌を持つ、社会科の男性教諭・担任の鈴木先生。

 そして、問題は、もう一人の人物だった。

 身長は、百七十五センチ程度。

 少しクセのある燃えるような赤毛と、深い水底のようなディープ・ブルーの瞳のコントラストが、否が応にも人目を惹く。

 青年、と言うよりは、まだ充分少年の面影を残した華奢な容姿は、まるで宗教画に描かれた無垢な天使を彷彿とさせた。

「えー、以前から説明してありましたが、今日は転校生を紹介します」

 席に着いた生徒たちから上がるどよめきに、納得気に頷きながら、鈴木先生は静かに口を開いた。