そして、案の定。
「み、御堂……?」
晃一郎を視界に捕らえたその刹那、先生の顔は瞬間湯沸かし器のように上気し、ただでさえ怖い三白眼が血走って更に迫力を増している。
――う、うわぁ……。こ、怖すぎっ。
次に来るだろう嵐の予感に、優花が身をすくめたその時。
「御堂晃一郎っ! なんだ、その髪の色はぁっ!?」
校門前に漂うピリピリとした空気をつん裂いて、山崎先生の重低音の怒声が響き渡った。
予想通り、先生に捕まった晃一郎は、そのまま生徒指導室へ強制連行されてしまった。
上背のある晃一郎だが、さらに背が高い大柄でガッチリ体形な山崎先生に手を引かれるその姿は、なんだか吹けば飛びそうに見えて、まるで、市場へ引き出されるイタイケナ子牛のようなその姿が哀愁を誘う。
優花の脳内を、『ドナドナ』の、どこか物悲しいメロディーが流れていく。
「晃ちゃん……」
どうすることもできずにただオロオロと見ている優花に、一つきれいなウインクを残して手をひらひら振って。
まるで、この危機的状況を楽しんですらいるふうに見える晃一郎の態度に、優花は眉根を寄せた。
――もう、何を考えてるのよ?
いつもと違う晃一郎の様子に、胸の奥に生まれたのは、漠然とした不安。
やはり、祖父の死が、影響しているのだろうか?
でも、それとは、何か違う気がする。
晃一郎の思考回路が全く理解できない優花は、その漠然とした不安を胸に一人、とぼとぼと教室に足を向けた。