「では来週、お待ちしています」

 丁寧に外まであたしを見送り、最後についでのようにそのひとは、

「僕は叶(かなえ)、と言います。これから宜しくお願いしますね、乃宮さん」

と、柔らかに笑った。





 仕事は本当に簡単なことで、在庫問い合わせのメールチェックとか本の発送とか、電話の取次ぎも会社での仕事とほぼ一緒。
 あとは書棚の本を一冊一冊、状態を確認しながら埃取りをしたりだとか。
 叶さんは、あたしのやりやすい様にやってくれたらいい、と基本的な事だけを教え、たまにアドバイスをくれるぐらいだ。
 好きな時間に来ていいと言われタイムカードも無い。お給料に至っては時給でも日給でも無く、一回の出勤につき七千円という手当制。
 交通費込みだと言われても、アパートから歩いても大したこと無い距離を自転車で来てる訳だし。
 とりあえず貰う金額に見合うだけの仕事はしようと、日曜の朝11時の開店から夕方6時の閉店まで、あたしは紙宝堂で過ごすようになっていた。