人形堂へ、ようこそ

 叶に、こんな風に抱かれたのは・・・去年のあのクリスマス以来・・・?
 蒼い炎を激しく燃やすように。静かにたぎるように。あたしを深く求めては切なさを吐き出すように。
 
「・・・ごめん。少し我慢が利かなかった・・・」

 自嘲気味な微笑を浮かべた叶の顔もおぼろげに、いつの間にか眠りに落ちていたあたし。

 目が醒めたら。
 いつもの叶の部屋。
 柔らかな羽布団の肌触りと、彼の腕の中にいる安心感。 
 とても気持ち良くて・・・蕩々と微睡む。
 小さく身じろぎすると、叶の指があたしの髪に優しく触れた。

「・・・おはよう。お姫様」

「・・・ぉはよ」

 遮光カーテンの隙間から漏れる日差しの色から、随分と陽も高い時間のようだ。

「たまには・・・こういうのもいいかな。お店さぼって、ふたりでズル休み」

 クスリと叶が笑う。

「店主失格だね」

「・・・いいんじゃない? たまになら」

 あたしも笑んで返して。
 嵐の後の凪。
 今のあたし達はそんな風。
  
「お腹空いた? 軽く作るからシャワーでも浴びておいで」

「うん・・・。ありがと」

「リツ、あのまま寝ちゃって、躰は拭いただけだから」

「・・・うん」

 額に柔らかなキスを落とされて。
 でも気付いた。
 叶の眸の奥の、妖しい獣の気配。
 きっと今日は一日、ベッドに繋がれて啼かされるんだろう。
 樹の名残を全部消し去るまで・・・。


「・・・樹が首輪なら、僕は鎖を買ってこようか」

 ベッドの中であたしを後ろから抱き、叶は頭の上で小さく笑った。
 朝昼?ご飯にツナときのこの和風パスタを作ってくれ、デザートの代わりだと言って、思ったよりソフトに〝食べられた〟後のこと。
 
「一生僕に繋いで、死んでも僕から離れないように」

 そんな告白を。
 叶はとても優しい声で言うのだから。