・・・あれから一週間。
 叶は『急ぐつもりは無いよ』と薄く微笑み、その後はいつも通りで何も変わらない。
 毎日抱かれているし、彼を愛おしく想う気持ちに違いも無いのだから。
 ただ。答えは未だに。
 ・・・自分でも良く解らない。

 目の前の横断歩道は青信号で。
 途中に危険な障害物がある訳でも無く、渡りきった向こう側に待っているのは、女の子なら誰でも夢見る幸せなのに。

 紙宝堂の仕事をしながら、叶に見えない場所で溜息を繰り返す。
 珍しく樹が陽も昇りかけの午前中に顔を出したのは、そんな折りだった。

「あぁ、なるほどな」

 奥の方の書棚を整理していたら、現れた彼。
 ひとの顔を見るなりその一言で、あたしは訝しげに目線を傾げる。

「・・・なあに?」

「いや? リツコに外の空気、吸わせてやれって叶が言うから、どんなかと思ったら。半分死にかけの金魚ってトコか」

「なにそれ」

 余計なお世話ですけど?

「たまには違う水槽で泳いでみろって話だよ。・・・いいから、出掛ける支度しな。今日は俺に付き合え」

 
 樹は面白そうに口許を緩めたのだった。