「そうしたいから言ってるんだよ」

 柔らかい口調。でも目は笑っていない。
 あたしの表情を的確に読んでる。・・・叶はそういうひとだ。
 言われた瞬間は多分、天まで舞い上がりそうに。
 だけれど。
 今の自分の立ち位置は果たしてそういうものなのかと・・・急ブレーキがかかってしまった。
 
「リツ?」

 黙り込んだあたしの顎の下に指がかかった。
 上を向かされ、叶の眸がすぐそこにある。 
 逸らしたのはあたしのほう。
 
「何を気にしてるの?」

「・・・・・・」

 そういう普通の結婚、みたいなものを望んでいいのかどうか。
 樹との三人の関係を続けていけるのかどうか。
 叶にとって、本当にそれは枷にはならないのかどうか。

「ちゃんと・・・言ってごらん」

 真っ直ぐに見つめられ、逃げ場が無くなった。
 思わず口にした言葉は。

「・・・ごめんなさい。もうちょっと待って・・・」

 ・・・だった。