「あ、お母さん? うん元気。・・・ちょっとね、仕事変わったの。でね引っ越したから、新しい住所で手紙出しておいたから。うん、大丈夫、お正月にはまた帰るし。ん、はーい、じゃあね!」

 スマートホンの通話を終了させる。
 もうあと二ヶ月もすれば一年の終わりと言う頃になって、あたしは実家に電話を入れた。
 紙宝堂に越して来てちょうど一年。
 良い頃合いかと思ったのだ。

「元気だった?」

 叶の微笑みに、あたしも小さく笑み返し。

「うん。変わりないみたい」

「そう。じゃあ今度のお正月には、リツのご両親に一緒に挨拶に行こうか」

「?!」

 思わず目を丸くする。
 だって、あの、挨拶って、それって。
 すると叶はクスクスと本当に可笑しそうに、あたしを見やった。 

「世間的にはリツもお年頃だし、ご両親を安心させないとね」

「・・・っ、でも・・・!」

 あたしの戸惑いがどこに在るかを叶は解っていただろうか。
 亡くなった志穂さん。
 人形堂の秘密。
 樹。
 腰を抱き寄せられ、一人掛けのソファに座っている彼の膝の上に摑まった。

「厭?」

 悪戯っぽい笑顔がすぐそこにある。
 イヤな筈がない。無い、けど。

 
「叶は・・・いいの?」

 その一言に尽きた。