躰に力が入らなくて・・・、後ろから樹に抱え込まれているのだと気付く。
 目隠しをされていても、すっかり馴染んだ体付きの感触は間違えようも無い。

 ソファか何かであたしは、樹の脚の間に座らせされているようだった。
 身じろいだあたしの耳許に、聴きなれた声が囁く。

「お目覚めか、お姫サマ?」
 
 意識はあっても、どこか頭の芯がぼんやりしていて。あまり上手く返事ができない。

「可愛い人形だと思いませんか」

 叶が誰かに話し掛け、樹があたしの肩に口吻を落とす。
 意識のない間に、オフショルダーのドレスか何かに着替えさせられたみたいだった。
 首筋、うなじ、肩、また首筋。やんわり唇が這って、状況もなにも分からないのに躰だけが反応する。 
 叶と樹のほかに誰か『お客』がいる認識があっても、見えないことが羞恥心すらも麻痺させていた。

「啼き声も、とても可愛いんですよ」
 
「非売品なんじゃねぇのか」

 野太い男の声。
 
「ええ、もちろん。・・・ですが少しくらいならお聞かせできます。特別なお客様には」

 穏やかな。でも温度と感情が抜けているような。いつもとは違う叶が、確かにそこにいる。気がした。