「乃宮理津子(のみや りつこ)さん・・・、OLさんですか」

 木製の猫足テーブルと椅子。
 深みのある色合いは、年代物そうだ。

 
『もしお時間があるのなら、店内をご覧になりますか?』

 面接しましょう、でも無く。
 押しつけがましさも感じない軟らかな微笑みで言われ、頷いてしまったのだ。
 一抹の警戒心も無かったとは言わない。ただ、人けは無くても周り近所も一応お店だし、声を出せば筒抜けだろうと踏んだから。
 後はもう直感で。悪そうな人には見えなかった。・・・ってそれだけ。

「もしかして転職をお考えとか」

「えっ? あ・・・違います。土日が休みなので・・・空いた時間に出来るかとちょっと思って。すみません」

 暇潰しの理由で希望するなんて雇う側としたら、話にならないだろう。
 こっちとしても成り行きでこんな事になってるし、断られてもそれはそれで構わない、と、真剣には考えていない。
 テーブルに置かれたティーカップからはダージリンの香りが仄かに立ち上っている。綺麗な色が出ていて、多分葉っぱから入れてくれたもの。
 折角だから手を付けたほうがいいのか。
 何となく躊躇しながら、受け答えしていた。

「ああ、よろしかったらどうぞ。冷めてしまいますから」

 すると自分もカップを取り上げながら、あたしに勧めてくれる。
 よく気のつくひと。
 それもさり気なく。
 たとえば。
 笑ってても嘘くさい人はすぐ判るし、だいたい目に反映されてる。好意だとか侮蔑だとか。
 短大卒で今の会社に就職。6年もいれば相手を嗅ぎ分ける本能ぐらいは身に付くものだ。
 目の前のこのひとは。・・・濁った感じはしない。
 言葉遣いも笑顔もナチュラルで。