中に入ると。マンションギャラリーの見学にでも来たかのような、シンプルデザインの家具や調度品が体裁良く整っていた。
 リビングダイニングがあり、壁際のドアに続くのはベッドルームだろうか。

 ここも叶の持ち物だとしたら紙宝堂とは随分、趣が違う。
 人形堂、と樹は言ったけれどお店では無いし、不安より不思議な感じがする。

「リツ。おいで」

 叶は変わらない笑みで、あたしをベッドルームの方へ通した。
 一転してカントリー風の内装。
 サイドチェストやロッキングチェアー、木の温もりの数々が気持ちを和らげてくれる。

「こんな遅い時間に、〝残業〟でごめん」

 言いながらあたしをベッドの端に座らせ、叶も横に腰掛けた。
 背中から腕を回して頭を抱き寄せてくれたから、そのまま彼の肩にもたれてしまう。

「これから来客があってね。・・・商談が成立するまでの間、リツにもそこに居て欲しいんだ」

「・・・居ればいいの?」

「樹が傍にいるから全部任せておけばいい。大丈夫、リツの安全は保証するよ」 

 思わず上げた顔。
 叶の視線とぶつかった。
 揺れない眸。
 今の貴方には。迷いが無い。
 
「リツは何も考えなくていい・・・。僕が仕事を終えるまでちょっと君を借りる、それだけだから。・・・怖い?」

 首を横に振る。
 
「緊張はしてるけど・・・」
 
「じゃあ一緒にお風呂に入ろうか」 

 にこりと叶が笑った。

「ここのは大きいから、二人でゆっくり出来るよ」