日に日に寒さが和らいで来て、そろそろ叶と出逢った季節が廻る。
 OLの自分がただの幻だったみたいに。
 それとも、この1年が濃密すぎたのか。
 紙宝堂の仕事もそれ以外の時間も、叶と切り離されることが無いから、・・・何を思い出しても彼一色だ。

 最近は時々そこに樹が雑じって。
 〝色〟が重なることもあれば、融け合わずにマーブル模様を描くこともある。



「ここン家のフロ、もう少しデカくすべきだろ」

「樹が大きいだけでしょ」

 もう何度も聴いたセリフで、あたしは呆れ気味に言う。
 紙宝堂の奥の居住部分は以前に総リフォームしたようで、キッチンもカウンター式だし、バスルームも今時のユニットバス仕様だ。ただ元々の造りが古いからマンションサイズではあるけれど。

 ガタイの良い樹が一人で浸かっても広くはないバスタブの中に、あたしを抱え込んではいつも無理なことをしたがる。
 
「リツコの為を思って言ってンだよ」 

「なあに、それ」

「もっと俺に色んなことされたいだろ?、お前も」

「・・・知らない」

「嘘言え」

 ククッと頭の上で笑い声がした。

 最近は随分と樹にも馴らされて、その触手使いに容易に乱されてしまう。
 ちょっと武骨そうで、自分本位にしそうなのに。
 あたしの反応をよく見て、探り当てるのも上手。

「ん、・・・っっ・・・」

 声を我慢しても、きっとリビングにいる叶に筒抜けだろう。
 それを判ってるから樹はあたしをバスルームに誘うのだ。