それからしばらく経って。あの夜以来はじめて、樹と顔を合わせた。

 後で。叶に仕組まれたんだろうと二人で気付いたのだけど、古書の買い付けに出掛けると言い置いて彼が店を出たその二十分後に、樹は突然やって来たのだった。
 最初の出逢いを再現したかのように店のドアが開き、お客かと思ったあたしと入って来た樹は、互いを見合ってしばらく固まっていた。

「えーと・・・、叶は出掛けてて・・・」

 とりあえずそれだけを言うと、樹は小さく溜息を漏らして、知ってる、と答えた。

「待たせてもらうわ」

 これもこの間と一緒。
 ホールの円卓席にどっかり腰を下ろした彼に紅茶を出し、さっさと書棚の整理に逃げようと踵を返しかけたところを呼び止められた。 

「叶から聞いたか?」

 なにを?
 首を横に振る。

「何も?」

 今度は縦に。

「・・・ったく。俺に丸投げかよ」

 チッと舌打ちが聴こえた。
 ・・・叶の話し方が丁寧な分、粗野というか粗忽というか。
 前にいた会社の営業社員と比べてもそんなに違わない態度だとは思っても、何か気に障る。というか。
 用がそれだけなら、と行こうとしたあたしの今度は腕を掴まえて。

「・・・知りたいこと、あんだろ? 教えるから座れよ」