年が明けてから、あたしは実家に顔を見せに帰った。
 いちおう毎年、正月には戻っていたし、叶にもそうするよう言われたからだ。
 ゆっくりしておいで、と駅まで送ってくれた叶の笑顔に後を引く思いで、それでも家に帰れば帰ったで家族の温かさに、やっぱりホッとしてしまうのだけれど。

 
『りっちゃん、ナンかキレイになった~。彼氏おるんでしょ』

 末妹で今年が成人式の紗菜にからかわれて思わず赤面とか、姉の威厳もへったくりもない。
 泊まっていけばいいのに、と残念がる家族に切符が取れなかったと謝り、夕方の新幹線に乗った。

 ほんの一日。
 叶と離れていただけなのに気が急いて。
 会いたくて。
 早く彼の腕に包まれたくて。
 車窓の向こうに流れてく夜景も、目に映っているだけで見てはいない。

 そう言えば、家族に仕事を辞めたことを話そびれた。
 子供が五人なだけあって、両親は細かいことはそんなに気にしない。元気でいるのが判れば、変に心配されることも無いだろう。
 今まで通りに。たまにメールしたり、普通にしていればきっと大丈夫。
 シートに体を沈め、あたしは瞑目する。

 これまでと変わらないよ、と淡く笑んだ叶を思い返す。あのクリスマスの朝の。

 『リツにはちゃんと別手当を支払うから、僕を手伝ってもらうことになる。・・・時間外労働で悪いんだけどね』

 どんな、と視線を傾げて見せたあたしに、

『リツにしか出来ないこと。僕が愛した君だから・・・出来ること』

 謎かけみたいな答え方で、叶はそれ以上のことは教えてくれなかった。
 いずれまた樹を呼ぶから、ときっぱり最後に言って、それまでは忘れていなさいとも。

 樹を呼ぶ。・・・の意味に惑ったのも確かだ。
 ただ。
 叶は意味の無いことはしない。絶対に。
 そう信じて、あたしは今は忘れてようと思うだけ。