揺れた、叶の眼差し。
 彼の本心が少しだけ剥がれて見えた。
 あたしの答えが思いも寄らなかったかのように。
 大人は建て前も完璧ね。
 逃がさないって言わないの?
 力尽くで征服しないの?
 あたしに選べなんて・・・、本当に狡いひと。
 
「叶が選んで。・・・言う通りにするから」

 叶の視線が止まる。
 微かに眸を見開いて、口許を歪めた。

「案外狡いんだね・・・、リツは」

「・・・・・・」

「自分の値段を僕につけさせたこと・・・きっといつか後悔するよ」

 言うと叶は、あたしのバスローブを乱暴に剥ぎ取った。
 強く引き寄せられ、裸身のまま彼の胸元に倒れこむ。
 痛いくらいに。
 痛いくらいに抱き締められた後。
 ベッドに戻されたあたしは、今までに無く責め立てられ、誰に何をされているのかも解らないほど。啼いて、壊れた。





 いつ眠りについたのかもあやふやな・・・朝。
 樹の姿は消え、あたしは叶の腕に包まれていた。
 いつもと変わらない温もり。

 ・・・何か変わったの?
 これから変わるの?
 聖なる夜の秘めごと。
 あたしは貴方に何を売り渡したんだろう・・・。何を失うんだろう。

 叶が目を醒ますまで。
 どうかもう少しだけ。
 何も知らない恋人同士のままで・・・いさせて下さい。