「どうして・・・、叶・・・」

 叶はあたしの手の戒めを解いた後、バスローブをあたしに羽織らせ。自分もそうして、冷蔵庫からミネラルウォーターを渡してくれた。
 樹は窓際に立ち、あたしには背を向けたまま。

 本当に良く解らない。
 あたしをただ、欲望の道具にしたかったと言うなら、もっとしたい放題にすると思うのに。
 
「・・・ここに樹を呼んだのは僕だよ」

 樹と少し離れた場所に立ち、叶はベッドの上のあたしを静かに見つめて言った。

「話す前に・・・リツ。今なら君はここから出て行ける。・・・これきりのチャンスだ。自分で選びなさい。話を聴いたら、君はもう一生僕から離れられない」

 あたしは黙って彼の言葉を聴く。最後まで。

「この部屋を出たら二度と紙宝堂には近付くな。・・・命の保証はしない」

 薄い微笑み。
 ああ、やっぱり貴方は。
 闇と隣り合わせに生きる人なの・・・。
 あたしはのろのろと重い躰を動かし、ベッドから降りた。
 樹がこっちを伺う気配。でも構わない。
 叶の前に立つ。
 見上げて、目を合わせる。
 叶もあたしを見つめる。
 ・・・そうね。目はね、本当に嘘がつけないから。

「・・・嘘つき」

 目を逸らさないままで、あたしは言う。

「思ってもない癖に」