二人とも上体を起こし、叶だけがあたしを見下ろしている。
 樹は・・・前屈みに、立てた片膝に体を預けたような恰好で。
 だから彼の表情は読み取れない。長めの髪が横顔も隠してしまって。

 あたしは。
 叶を見つめ返すしか何も出来ない。
 目はそのひとを映す鏡。悪意。狂気。嘘。虚無。偽り。優しさ。愛しさ。哀しみ。怒り。憤り。あの小さな部分に、ひとは知らず本心を晒す。

 叶は・・・一度も目を逸らさなかった。
 いつもと変わらない、あたしが良く知っている眼差し。
 あたしは彼の眸の中に何かを探そうと一心に目を凝らす。
 言葉は欺く。
 だから。
 まるでそれすら解っているように叶は何も云わない。あたしの裁定をを待ち続けるように。

 ねえ、叶。
 貴方はあたしを『裏切った』の?

 そう思った刹那。
 涙が零れ落ちた。
 二回、三回、頬を伝っては。
 叶は腕を伸ばし、指で拭ってくれた後に一瞬、空(くう)を仰ぐ。

 
 ・・・その瞬間に突き抜けた想いを、どう説明していいか解らない。
 何故か胸が詰まった。
 彼が何かに祈ったようにも見えて。
 哀しい? 苦しい? 何がそんなに貴方を・・・。
 

 ゆるゆると息を吐き出す。
 ああ、きっともう手遅れだ・・・。
 こんなにも、叶を理解したがって。
 逃げるなら今しか無い。
 浅はかに彼を信じて、取り返しがつかなくなってもいいの?
 彼が壊れていないなんて保証、どこにも無いのに・・・!
 ・・そうやって一生懸命、警告灯を鳴らしてあげてるのに。
 女って本当にどうしようも無く、感情のイキモノだ。
 ・・・ううん。莫迦だ。
 

 ・・・望んで堕ちるのなら、後悔も少ないだろうか。
 きりきりと心臓が軋む。

「・・・教えて。どうして・・・? 叶・・・」

 自分から押し開く、・・・・・・の扉。