「今夜はここで、二人きりのクリスマスだからね」

 叶はあたしの肩を抱き、ゆっくりとフロントに向かいながら耳許に甘く囁いた。 
 買い物の後はどこか食事でもして、家に戻るのだとばかり思っていた。
 だって、それだけでも充分だったし!
 なのに。
 ちょっとドライブしようか、なんて言って小一時間車を走らせ、陽も落ちかけた海沿いの夜景を堪能していたら、いつの間にか地下駐車場にハリアーは滑り込んでいたのだから。

 人気の湾岸エリア。海浜公園を臨むホテルは、コンチネンタルスタイルでとても上品な空気に包まれていた。
 外国人も多く、例えば若いカップルがはしゃいでいたりしたら相当場違いなことだろう。

「お荷物はお運びしてございます」

 チェックインを済ませ、エレベーターの中でコンシェルジュがにこやかに笑う。
 
「有難う」

 薄く笑んで返す叶。
 他人の目から見たら、彼は一流企業のエリート社員にも見えるだろうか。
 5年前、紙宝堂をお父様から継ぐまではサラリーマンだったって前に話してくれたけど、・・・もしかしたら。
 いろいろ場馴れしてるのは判るし、だったとしても、あたしは今の叶だけでおなかいっぱい。本当に。

「ごゆっくりとお寛ぎ下さいませ」

 彼女が退室した後、あたしは思わずはしゃぐ。

 11階の展望は素敵だった。
 大きな窓。バルコニーの向こうには、海を渡る道路のイルミネーション。海浜公園の大観覧車も光のドレスアップをしていた。
 一番はバスルーム。こっちも嵌め殺しの大きな窓から夜景が一望出来るのだ。

「気に入ってくれた? リツ」

「嬉しすぎて・・・どうしよう」

 ぎゅっと叶の背に腕を回し、あたしはその胸元に顔を埋めた。

「まだ夜は・・・これからだよ」

 顔を上げたあたしにキスが落ちる。
 腰を引き寄せられ、長いことお互いを堪能する。
 このままベッドで好きにされたい欲情が湧いているのも、叶はお見通しだったけれど。

「ディナーの後まで我慢しなさい」

 クスリと笑ってあたしの髪を撫でたのだった。