クリスマスとかバレンタインとか。
 こういうのって何歳になっても、初めての相手だと浮かれて舞い上がるものなんだと思った。
 あたしの歩幅に合わせてゆっくり歩く叶。
 彼のコートのポケットには、繋いだあたしの手ごと収まって。 
 車だから手袋は持って出なかった。
 ランチの後、少し歩くからと叶はすぐにそうして、ひと時も離れてる感が無い。 

 赤。緑。白。
 クリスマス色に染まった街。
 この日に独りじゃないってだけだって、奇跡みたいなものなのに。
 さっきのランチだって和懐石のお店で。予約しか受け付けていないらしく、席もすべて個室のようだった。かなり前からリザ-ブした筈だと想像がつく。

 叶が。
 この日を用意しておいてくれたことが、こんなに嬉しいなんて。
 だって。先のことなんて判らないって思わなかった?
 あたしがいることを当たり前って・・・思ってくれてた?
 ああもう。
 世界が明日で終わっても後悔ないぐらい、何に感謝しよう。

「・・・理津子さん、さっきからご機嫌ですね」

 言われてちょっと赤面。
 隣を見上げると、叶にクスリと笑い返される。
 思ってる事がぜんぶ顔に垂れ流しになっていたみたい。・・・恥ずかしい。

 叶がふと一軒の店の前で足を止めた。

「ちょっと寄ってもいいかな」

 三角に突き出た小ぶりのショーウィンドゥ。
 懐中時計が数点、飾られている。
 英語かドイツ語か、店の名前は読み取れない。
 木製の扉を押し開け、叶はあたしを連れて中に入っていった。

「いらっしゃい」

 ルーペを付けた年配のおじさんが、こっちを見て愛想も無く声だけ掛けて来る。
 店内は思ったよりも手狭で、ショーケースが一列だけ。その奥にコの字型のカウンターがあり、おじさんは内側に座って何かの作業をしていた。

「叶と言いますが」

 彼がそう言うと、「出来てるよ」とついでのような返事が返った。