表のそれを見たのは偶然だった。
 と言うより。この店の前を通ったことすら偶然だ。
 古書店が立ち並ぶ独特の界隈。
 本を読むのは好きだけれど、古書は興味なかった。買うなら普通に本屋で新書を買うもの。

 日曜の昼下がり。特に予定も無くて、もうすぐ切れそうな柔軟剤だとかハンドクリームなんかを買い足しに行こうと散歩がてら、歩いて15分ほどのショッピングセンターに行った帰り道。
 桜も終わって、こんな爽やかな風が吹いていなければきっと、寄り道でもしてみようなんて気は起こさなかった筈なのに。

 その路地の入り口にはちゃんと、『橘橋商店会』の名入り看板があって、いかがわしい店が集まってる風でもないんだろうとは思ってた。ただ。たまに通りがかっても、ひとが歩ってる姿は見たことが無かったし、パッと見でどんな種類の店があるのか見当もつかなかったから。

 だから、たまたまだったんだろうと思う。
 ちょっと年配のおばさんが、何かの買い物袋を下げ一人でそこに入って行ったのを見て何となく。
 本当に何となく、足を向けてしまったのだ。