「飯島さん、とても盛大なパーティですね。あ、葵物産の工事では大変お世話になりました」
「こちらこそ、大変お世話になりました」
私がペコリと頭を下げると飯島さんも同じしぐさでペコリと頭を下げてから、外見と同じに陽気な声でカラカラと笑った。
「いやぁ、なんだか見違えちゃいましたよ。いつも事務服にスニーカー履きで、安全ヘルメットを被って図面を小脇に抱えて現場を闊歩している高橋さんのこんな姿が見られるなんて、サボらないで出席した甲斐がありましたよ」
まさに飯島さんの言葉通りで、色気のかけらもなく工事現場を歩き回っている普段の私の姿からすれば、今のドレスアップした出で立ちは、我ながらすごい変わりようだと思う。
なんとなく、童話のシンデレラが思い浮かんで苦笑してしまう。
シンデレラの魔法は、午前零時になれば消えてしまう時間制限付きの儚い魔法。
日頃着ることのない高級服を纏っていつもと違うメイクで変身して、一夜限りのパーティに出ている、まるで今の私みたいだ。
「ありがとうございます。素直に喜んでおきますね」
「今日は、社長の名代ですか?」
「あ、はい。実は社長が急に都合が悪くなってしまったものですから、私と、工務課の課長と二人でお邪魔したんです」
「工務課の課長って、木村さんだっけ?」
「あ、いいえ、木村は今病気療養中でして、新任の谷田部と一緒に来ています」
「谷田部さん?」
「まだ就任して間もないので、飯島さんは面識がないと思いますけど……」
入り乱れる人波の中に視線を巡らせると、私が来ないことに気付いたのか課長が戻ってくるのが見えた。
「高橋さん、こちらの方は?」
歩み寄ってきた課長は、私の傍らに立つ飯島さんにニコニコと人好きのする笑みを向けた。
――うわ、これ、営業スマイル全開だ。