受付で着替えの入った荷物を預かってもらい、いざパーティ会場のホールに一歩足を踏み入れたその瞬間、私は目の前に広がる光景に驚いて、思わずその場で足を止めた。

 広い。広すぎる。なにこれ? 

 故郷の結婚式場のホールが三つは余裕で入ってしまうあまりのだだっ広さに、ただただ呆然と会場内を見渡す。

 その広々とした空間には大きな丸テーブルが適度に配置されて、豪勢な料理や飲み物が所狭しと置かれていた。

 どうやら立食、バイキング形式のパーティらしい。

 ああ、履きなれた黒パンプスでよかった……。

 さすが天下の清栄建設。

 会場も広ければ、参加者の人数も半端じゃない。

 人ごみが苦手な私は、その光景だけで眩暈がしそうだ。

 うわぁ、課長とはぐれないようにしないと。

 ここで迷子になったら、それこそ会社の大恥だ。行く先々の清栄建設の現場で、きっと語り草になってしまうに違いない。

 こ、心してかからねばっ!

 なんて変な決意を固めながら、先を行く課長の背を追いかけようと足を踏み出したとき、背後からトントンと肩をたたかれた。

「高橋さん!」

 闊達(かったつ)とした張りのある声に名を呼ばれ、振り返る視線の先には見覚えのある色黒の好青年の姿があった。

 課長ほどではないけど上背があり、そのガッチリとした体躯は日々の現場仕事の賜物(たまもの)で、健康的な日に焼けた肌と少年のような屈託ない笑顔を持つこの人は、飯島(いいじま)耕太郎(こうたろう)さん。

 私よりも二歳年下の二十六歳。

 何度となくお世話になった顔なじみの、清栄建設の現場監督さんだ。