せめて、一番安いものを選ぼう……。

 ああでも、どれもこれも高い、高すぎるー!

「俺は、三番目に見た服が似合うと思うけど?」

 迫る時間に、決まらない服。

 焦りまくる私に、背後から課長の助け舟が飛んで来た。どんな服を選んでいるのか、ちゃんと見ていてくれたらしい。

「まあああ、お目が高い。これは私共の店でも人気が高いブランドです。それに、スタイルが良くっていらっしゃるから、とてもデザインが映えますよ!」

 ここが押し時とばかりに、店員さんはハンガーから服を外して私の体に当ててみせる。

 確かに、素敵だ。

 品の良いワインレッドのワンピースに、ダークレッドの同素材のボレロがついている。私的にも好きなデザインだ。

 でも――。

「えっと、その……」

「気に入らないのか?」

 課長に真っ直ぐな瞳で問われ、ドギマギしてしまう。

「いいえ、そういうわけじゃないですけど……」

 高いんですってば。

 私の給料なんて、軽くスッ飛んでしまうくらいに、高いんです!

 って、叫べたらどんなにいいだろう。

「じゃあ、それで決まりだ。遅刻はできないぞ? さあ、着替えた着替えた」

『遅刻はできない』。

 その一言に、背中を押されてしまった。