会社を出て間もなく到着した社長御用達の高級ブティックには、目の飛び出るような値段の高級服がずらりと並んでいた。

 ゼロの数が半端じゃない。

 桁数が完璧に一つ二つずれている。

 普段着は千円トレーナーとジーンズで過ごす私には、まさに別世界。

 否、別次元だ。

「あの、これって、レンタルにならないですよね?」

 思わず、店員さんに聞いてしまった。

「まあ、ご冗談を」

 スレンダーな熟年店員さんはオホホホと品の良い笑いで、私のばかな質問をジョークとして流してくれた。

――ですよねぇ。
 わかってます。
 言ってみただけです。

「高橋さん」

「はいっ?」

 店の一角に置かれたオシャレなテーブルセットに鎮座して、用意されている雑誌を見るともなしにペラペラとめくっていた課長に名を呼ばれ、ドキリと視線を走らせる。

「これは仕事なんだから、服装を整えるのもまた仕事。だから遠慮などすることはないんだ。好きな服を選んだらいい。どうせ払うのは、あの狸親父だ」

「あ、あはは……」

 そう言われても、二十八年で培われてきた経済観念が『それはダメでっせ』とエマージェンシーを発してしまう。