歩みよってきた課長は、私の顔を見て驚いたように目を見張った。
「驚いたな。女の子は化粧で化けるものだなぁ」
「もう『女の子』って年じゃないですよ」
少しおどけたように笑う課長にせいいっぱの虚勢を張って、作った笑顔をどうにか浮かべる。
「タクシーも来たようだし、行くとするか」
「はい。パーティには慣れていませんので、よろしくお願いします」
「了解」
ペコリと下げた頭に手のひらのぬくもりを感じた気がして、一瞬にして全身が固まった。
でも、その感触はほんの一瞬のことで、驚いて顔を上げて見つめても課長の表情には別段変化はなく。
――気、気のせい?
ジッと穴が開くほど見つめてもニコニコスマイルは崩れることはなく、玄関先で上がったタクシーのクラクションの音に、ハッと現実に引き戻された。
――そうよね、こんな会社の玄関先で『頭ナデナデ』なんて暴挙、課長がするはずがないよね。
「さあ、行こうか」
「は、はいっ」
会社の外は、まだ夕闇前。
走り出したタクシーの窓越しに見える黄昏色の街には、ポツリポツリと明かりが灯っていく。
いつもなら気にもしないその風景がどこか輝いて見えるのは、やっぱり気のせいかもしれない。