プルル、プルルと呼び出し音が聞こえるたびに、ドキンドキンと鼓動が大きく高鳴っていく。

 プツン、と電波がつながる音がして、息を飲んだ。

「高橋さん?」

 一瞬後、耳元に響く優しい声音に、全身に広がったのは泣きたくなるくらいの安堵感――。

 付き合っていた頃、いつもより低く聞こえる電話越しのこの声が好きだった。

 電話がかかってくると、この声をいつまでも聞いていたくて必死で話題を探して、少しでも通話時間を長引かせようと頑張っていた、十八歳の私。

 その頃の気持ちが一気に甦ってくる。

「課長……」

 思わず鼻の奥にツンと熱いものが込み上げ、言葉が続かない。

 やだ。なにこれ?

 こんなことくらいで、何、やってるのよ、私。

 お願いだから、震えるな。

 ギュッと唇を噛みしめて、そう祈るような気持ちで、どうにか声を絞り出す。

「今、エントランスに居るんですけど」

「ああ、すまない。社長に呼び出しをくらって、遅くなった。今エレベーターにのるからそのまま待っていてくれ」

「はい、わかりました」

 プチン、と通話が切れた瞬間、我知らず大きなため息が漏れた。

 私は、自分が思ってる以上に弱い女なのかもしれない。

 こんな些細なことで、電話から聞こえる声だけでこんなにも揺れてしまう。

 お酒だけは飲むまい。

『課長の歓迎会の悪夢再び』だけは、絶対避けなければ。

そんな決意を心密かに固めていると、『チン』と言う音と共にエレベーターが止まった。

 開いたドアの向こう側に見慣れた人影を認めて、ホッと胸をなでおろす。