ものすごい地雷を踏んでしまったと、脳内もフリーズ。
たらりたらりと嫌な汗が背筋を伝い落ち、なんて謝ればいいか凍りついた脳細胞をフル活動させて考えていたら、『ククッ』と課長が喉の奥で笑ったのが聞こえた。
え? 何? これ、笑うところ?
「なーんてな。嘘。本当は父親の友人なんだ」
な、なーんてな、だぁ!?
「……」
あまりと言えばあまりの言い草に言葉をなくして、愉快そうに笑うその顔を呆然と見上げていたら、課長は少し遠くを見るような懐かしげな眼差しで、ポツリポツリと言葉を続ける。
「親父と社長が昔の同僚で、俺がガキの頃からの付き合いなんだ。だから、『親戚のおじさん』みたいなものかな」
「……」
「昔から思いついたら即行動の、イタズラ好きの子供みたいな人でね。ああ言う顔をした時のあの人は、何か企んでいることが多いんだ。だから、どんな裏があるんだろうと観察していたんだが、やっぱり簡単に尻尾は出さないな、あの狸親父は」
「はあ……」
さようでございますか。
妾腹ショックが大きすぎて、まともな反応ができません、私。
ここで、いきなりおちょくりますか、ふつう。
「高橋さーん。聞いてますか?」
「聞いていません。なんだか仮面が外れかけてませんか、課長。今から接待パーティなんですから、ちゃんと被りなおして下さいね!」
私の言い回しが笑いのツボに入ったのか、課長は愉快そうに笑っている。
「仮面か、うまいことをいうな。しっかり被りなおすことにするよ」
「はい。ぜひそうしてくださいっ」
やめてよ、もう。
これじゃ、まるで、昔の東悟と居るみたいじゃない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、課長の浮かべた愉快そうな笑顔はまるで、夢に見たあのころの東悟のままで。
胸の奥深いところで、悲しみにも似た痛みを伴った甘い感情が、ユラユラと揺らめいた。