早速出かける準備をするため課長と二人、十階建ての本社ビル最上階の社長室から、三階にある工務課へと足を向ける。
チラリと課長の表情を伺い見ると、やはりどこか不機嫌そうで、もしかして自分が何か気に障る事でもしたのかとドキドキしてしまう。
このなんとも嫌な雰囲気を払拭したい。
――な、何か、話題をふらなければ。
そう思ってほんの軽い気持ちで、エレベーターを待つ間、社長室で感じた疑問を素直に口にした。
「あの、課長?」
「うん?」
「課長と社長って、その、どういった関係かな? ってっ……。なんだか、親しい感じがしたんですけど」
普段、部下相手でも社交辞令の完璧な営業スマイルを崩さない課長が、あんなふうに露骨に感情を表して応対するのを見ていたら、そんな気がしたのだ。
やっぱり、親戚とかの縁故で入ったのだろうか。
なんて、勝手に答えを先読みしていたら、課長は少し自嘲気味に口の端を上げて、ポソリと呟きを落とした。
「妾腹の息子だよ」
「は……?」
ショウフクさんの息子?
聞きなれぬ単語に首を傾げていたら、「妾の子供の、妾腹だ」と私の顔を覗き込んで説明を補足されて、単語とその意味が脳内で合致した瞬間、ギョッと全身が固まった。
「えっ!?」
――め、妾の子供っ!?