「はい、そういうことでしたらお任せ下さい。でも、服装は、スーツでも良いのでしょうか?」

「ああ、それなら心配はいらない。この店に行って、適当なものを見繕っていきなさい。話は通しておくから」

 渡された名刺を見て、思わず目を見張った。

 わあ、ここ、高いので有名なブティックだ……。

 さすが社長、太っ腹。

「谷田部君はそのままのスーツで、構わんからな」

「分かっていますので、お気遣いなく」

 若干冷たいト―ンの抑揚のない課長の声に、わいてくる違和感。

「酒の席だから、タクシーを使いなさい。ちゃんと高橋君を、エスコートしてやってくれ。これが招待状だ」

「……はい」

 ニコニコ笑みを崩さない社長に、なぜかやっぱり課長の返事はつれなく、淡々と差し出された招待状の入った白い封筒を受け取り胸ポケットにしまいこむ。

 なんだろう、この微妙な空気。

 こうして社長と課長、二人の会話を聞くのはこれが初めてだけど、なんだか二人の関係が、ただの社長と課長の枠をはみ出しているように感じるのは、気のせいだろうか?

「始まりは十九時からだから、もう仕事を切り上げて行きなさい」

「はい、わかりました」

 さすがに緊張して楽しむことはできないだろうけど、せめて会社のイメージアップができるように……、と言うより失敗をやらかさないように気を付けなくては。

「それでは、失礼します」

 なぜか、社長室に入ったきりだんまりを決め込んで自分からは話そうとしない課長の代わりに、そう挨拶をして社長室を辞した。