課長と二人、社長室で社長自ら言い渡されたのは、わが社の大得意先である元受ゼネコン、清栄建設主催の関係業者を招待した交流パーティに、『今夜』、課長と私の二人で出席するようにとの依頼、と言う名の社長命令だった。
文字通り降って湧いたような話に、今一状況が呑み込めない。
「清栄建設の関係業者交流パーティ……、に出るんですか?」
「そう、君たち二人で、行って来てくれないか?」
社長室の立派な木製のデスクで日本茶をすすりながら、そう言って社長は、福々しいまでの満面の笑顔を浮かべた。
見た目大黒様風のこの笑顔で言われたら、社長という肩書がなくてもきっと断れないのに違いない。
「ええっと、課長はともかく、私でいいんですか?」
確かに私は工務課の古株で清栄建設の仕事も沢山こなしてきたけど、ただの一社員の加工図面書きに過ぎない。
普通、この手の営業が絡むパーティには、社長自身か息子の専務が出席するのが通例なのに。
――どうして、私が?
「本当はわしが行くはずだったんだが、少し都合が悪くなってしまってな。時間外にすまないが、二人で出席してくれないか?」
偉そうに上から目線で命令されれば反発のしようがあるけど、こうも下手に笑顔でお『願い』されたら、嫌と言えるはずがない。
さすが、大海太陽、一代で小さな町工場を県下一の大会社に叩き上げた実績は伊達じゃない。
この人は、お金や権力では人を動かさない。
心で人を動かすのだとそう思う。